こころに問いかけながら
新しいお酒のマガジン、始まります。

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は、
現代の風土記

かつて私たちの先祖が
各地の伝承や物産を
「風土記」として記したように、
「On Drinking」は、
お酒を通して土地を知り、
人を知るメディアです。

各地のお酒をめぐる物語、
土地の自然や歴史、
そこに生きるつくり手の哲学や技術。
そうした背景にある
時間の積み重ねと人の営みを、
写真と文章、時に動画も用いて
丁寧に記録していきます。

お酒は人を幸せにするか。
その答えを探す旅へ。

On the Journey 紀行特集

# 01Nara

奈良、
お酒のはじまりを訪ねて

“お酒”を入り口に、土地の文化や歴史、人の営みをたどる紀行特集「On The Journey」。第1回は「日本清酒発祥の地」とされる奈良を訪ねます。酒文化を受け継ぐ人、新たにお酒をつくり始めた人を通して、奈良という土地のテロワールを見つめます。

奈良の町並み
奈良のお酒
奈良県の取材地マップ(東大寺・春日大社・法隆寺・橿原神宮・吉野山ほか)
Special Voices 特別収録

お酒は人を幸せにするか。

奈良取材でお世話になった人たちに
聞きました。

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木谷ワイン

お酒が人を幸せにするものだというのは、僕の中では間違いないことです。僕は昔から飲み会を開くのも好きで、今もワインづくりを手伝ってくださっているスタッフと、作業後に打ち上げのような時間を持つことがあるんですけど、それも喜びのひとつなんですよね。20代の若い人も来てくれるし、70代の方も来てくれる。同じ卓を囲んでワインの話をしている時もあれば、まったく別のことを話している時もある。最初はみんなおとなしいんですけど、お酒を飲み始めて1時間もすると、だんだん話が深まっていくんです。お酒って、そういうふうに関係性をつないでくれるものでもあるし、実際、みんなすごく幸せそうな顔をしています。

つくり手としても、お酒がきっかけで人と人との関係が生まれるのは、やっぱりすごくうれしいです。一昨年の年末に中学校の同窓会があったんですけど、二次会でみんなが僕のワイナリーに集まってくれました。僕のつくったワインを飲みながら楽しい時間を過ごしてくれて、「おいしいね」と言ってくれた。それは僕にとって、すごく幸せな風景でした。地元でワインづくりをしているのも、こういうふうに人が集まる場所になるからなんです。お酒は、その場の楽しさを加速させるものなんだろうなと思っています。

木谷ワインの醸造家 木谷一登さん

木谷ワイン

木谷一登 さん(醸造家)

奈良県香芝市出身。京都大学大学院修了後、銀行勤務を経てワインの道へ。大阪府柏原市のカタシモワイナリーで栽培・醸造の研修を受け、2018年にワイン用ぶどう農家として独立。2022年、奈良県初のワイナリー「木谷ワイン」を立ち上げた。奈良で生まれたぶどうを奈良でワインにすることを掲げ、土地の風土を映したワインづくりに取り組んでいる。


Photo: Shoko Takayasu Location: 橿原市にある木谷ワインのブドウ畑

倉本酒造

お酒はコミュニケーションツールとして、とても大事なものだと思っています。食事のときにあったら料理が美味しくなるし、その場を和ませてくれるし、会話も弾む。

人生にとって、なくてもいいものかもしれないけれど、人とのつながりを深めてくれたりして、すごく大事なものだと思います。

特に日本酒には文化的価値というものがあり、昔から神事であったり、冠婚葬祭であったり、祀りごとと共に歩んできた歴史があります。

そして、お酒というものは人生の区切りとか節目とかで関わってきて、心を豊かにしてくれるもので、“人を幸せにするもの”というよりも、“人は幸せになっていた”、みたいなものがお酒なんじゃないかなと思います。

倉本酒造の代表取締役・醸造責任者 倉本隆司(くらもと たかし)さん

倉本酒造

倉本隆司 さん(代表取締役・醸造責任者)

1981年、奈良市都祁生まれ。2004年、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科卒業後、森永乳業株式会社に入社。茨城県内の工場に勤務し、食品衛生や製造設備について学ぶ。日本酒づくりへの想いを捨て切れず、2015年に退職して実家の倉本酒造へ。酒類総合研究所での講習と研究生を経て酒づくりを始める。2019年に「KURAMOTO」シリーズを立ち上げ、既成概念にとらわれない酒づくりに取り組んでいる。


Photo: Koichi Mitsui Location: 倉本酒造

「On Drinking」

私が20代の頃、職場の上司だった作家の松島駿二郎さんの赤ら顔が浮かんできました。大学の探検部出身で、1960年代から80年代にかけて文字通り世界中を旅して、行く先々の酒場で、片っ端から現地の酒を飲み歩いてきたツワモノ。都内で一緒に飲んでいたある日、これまでの酒の収支はいかほどかという話題になり、松島さんは、「うーん、トントンだな」と。

酒場巡りをもとに、博多のミニコミ誌「中州通信」(2010年休刊)で「万国酒場見聞録」というコラムを連載。それを収録して1986年に同題の本が筑摩書房から出ました。久しぶりに本を開いてみたら、あとがきにこんな一文が。

酒で失ったもの。
少しばかりの記憶。いくつかの約束と信用。わずかな知識と知恵。友情。
酒で得たもの。
少しばかりの記憶。いくつかの約束と信用。わずかな知識と知恵。友情。

10年前に74歳で亡くなられましたが、ドライな物言いの松島さんが、友情という言葉を記していたとは。「On Drinking」の編集チームに加わってほしかったなあ。

「一献いかがですか」。世の中はそれで始まる人間模様がいっぱいです。お酒を飲む場には、飲む人はもちろん、飲まない人も含めて、人を引き寄せる力があります。人は集うと得体の知れないエネルギーが湧いてきたり、幸せな気分になったり、唐突にアイデアが湧いてきたりします。

個人的に好きなのは2人カウンターに並んで。卓を囲む場合は5人くらいまでかな。ひとりで好きな音楽を流し、本を読みながら飲むのも悪くありませんけどね。問題はすぐに眠くなってしまうこと。

そんな酒の経験を重ねて半世紀近く。お題に対して私は小声で。はい、と答えます。

「On Drinking」編集長 鈴木昭さん

「On Drinking」

鈴木昭 さん(編集長/編集者・ライター)

大学卒業後、雑誌書籍の編集制作会社を経て日経BP入社。日経エンタテインメント編集記者、日経クリック編集長、開発室、経営企画室、海外事業戦略室、日経ビジネスオンライン企画編集などに携わる。2020年、コンテンツブレイン入社。Webマガジンの企画・編集を担当。趣味は食べ飲み歩き、古典芸能・映画・TVドラマ・スポーツ鑑賞。唎酒師(SSI認定)


Photo: Shoko Takayasu Location: 「日がさ雨がさ」(東京・四谷)

「THE SAILING BAR」

お酒は人を幸せにできると思っています。もう少し厳密に言うと、“人の幸せを引き出す力”があると思うんです。

僕の好きな中国の古い言葉に、「酒は歓を合する所以(ゆえん)なり」という一文があります。“歓”というのは歓びのことですが、お酒は、人と歓びを共有するための最高のきっかけになる、という意味なんですね。

例えば、「あの人のカクテルを飲みたい」とか、「あの人のお酒を飲みたい」って言うじゃないですか。でも実は、それって“あの人に会いたい”ってことなんですよね。

ただ、人って面と向かって“会いたい”と言うのは少し照れくさい。だから、「飲みに行こう」とか、「あの店に行こう」っていう、お酒が最高のエクスキューズになる。お酒を通じて人と会って、時間を共有して、歓びを分かち合う。そのきっかけを作ってくれるものがお酒なんだと思います。

だから僕は、お酒には人を幸せにする力があると思います。

THE SAILING BAR 渡邉匠さん

「THE SAILING BAR」

渡邉匠 さん(マスターバーテンダー)

岐阜県出身。大学進学を機に桜井市在住。会社勤務を経て1994年、「THE SAILING BAR」に就職。現在も同店でバーテンダーを務める。2010年に世界最大級のカクテルコンペティション「Diageo World Class 2010」日本予選優勝、世界大会総合9位など、卓越した技術力と表現力は国際的に高く評価されている。また、同店から多くの有望なバーテンダーが巣立っている。「橘花KIKKA GIN」(大和蒸溜所)アンバサダー、奈良の日本酒メーカーとのコラボによるオリジナルカクテル開発など地元奈良の酒造各社との協業も積極的に展開している。


Photo: Koichi Mitsui Location: THE SAILING BAR

FARMENTRY

学生の頃は、みんなで集まってピッチャーのラガービールを飲むのが僕の中での“ビール”やったんですけど、正直ちょっと苦手やったんです。そんな時、偶然同じマンションに住んでたスコットランド出身の男の子に誘われて、初めてエールビールを飲んで。その時の感動がすごかったですね。紅茶とかパンとかビスケットみたいな香りがして、ぬるくて、色も褐色で。冷たくて金色のものがビールやと思ってたので、ラガーとは全然違うなって。

そこから一気にビールの世界に引き込まれました。

お酒は確実に人を幸せにするもんやと思います。僕自身、もうめちゃめちゃ幸せですもん。一人でお酒を楽しむ幸せももちろんあるけど、お酒を飲む時間には、周りにいる人らも一緒に幸せにする力がある。みんなで同じ時間を囲めることが、やっぱりいいんですよね。

それに、完成したビールももちろん美味しいんですけど、つくってる途中のビールがめちゃくちゃ美味しい時があって、それは僕らつくり手しか体験できない。そういう時に、「またこんなん作りたいなあ」と思います。つくり手の方がもしかしたら楽しいのかもしれないですね。ビールづくりは、僕にとってはほんまにワクワクできる幸せな仕事です。もう1回人生をやり直せるとしても、僕はビールをつくると思います。

FARMENTRY 西崎翔さん

FARMENTRY

西崎翔 さん(CEO & HEAD BREWER)

奈良県五條市に生まれ育つ。大阪の医療専門学校を卒業後、新潟大学へ編入。奈良県橿原市にある奈良県立医科大学に放射線技師として就職するも、学生の頃より魅了されていたクラフトビールの世界へ進むべく、憧れのブルワリーである和歌山県田辺市の「ボイジャーブルーイング」へ転職。約6年間の在籍を経て、2023年10月に橿原市で株式会社FARMENTRYを設立。2024年8月に醸造を開始する。


Photo: Shoko Takayasu Location: FARMENTRY

今西酒造

お酒は人を幸せにします。お酒というのは祈りの象徴です。日々、神様にお供えをし、感謝をお伝えして。お祭りが終わった後にはお神酒をいただく。

人はからだに神様を迎え入れる。神様と人をつなげるものが酒ですよね。

人と人が結びつく場所にも酒は絶対欠かせないものです。人と人をつなぎ、人の心をほどく存在、それが酒だと思います。
それが酒というものなんですよね。

私が大学を卒業後、東京の会社に就職する前に、父に連れられて、桜井市にある「THE SAILING BAR」に行きました。
オーセンティックなバーというのは初めての経験でした。そこで僕は父と本音で語り合えた。すごく幸せな思い出です。

ふだん照れくさくてできないようなことが、お酒のおかげでできたことだと思います。

就職が決まった弟を、死んだ父に代わって僕が、「THE SAILING BAR」に連れて行きました。ここでまたお酒の力で弟の心をほどいてもらって、親父のメッセージを弟に伝えることができました。いい時間でしたよ。お酒っていうものは、なんかそういう力があると思います。

日常ではない、深い部分で、働いてくれるある意味ツールのようなもの。それができるのが酒なんかなっていうふうに思ってます。

今西酒造 今西将之さん

今西酒造

今西将之 さん(今西酒造 第十四代当主/代表取締役)

1983年、奈良県三輪生まれ。同志社大学商学部卒業後、都内の大手人材会社に入社。TOPセールスとしてMVP賞はじめ多数の賞を受賞。先代の急逝を受け、2011年に家業に戻り、今西酒造の十四代目蔵主として代表取締役に就任。家業の立て直しと改革を進め、酒質向上を実現。全国新酒鑑評会では5年連続金賞受賞、SAKE COMPETITION 2026純米酒部門・純米吟醸部門1位、関西酒質向上委員会1位、酒屋大賞2023最高賞(GOLD)ほか表彰多数。醸造哲学は清く、正しい、酒造り。「酒の神が鎮まる地・三輪だからこそ表現できる酒づくり」に徹する。


Photo: Shoko Takayasu Location: ご自宅の縁側