奈良市内から車を走らせること約2時間。いくつもの峠を越えた先に、洞川温泉が見えてくる。
この小さな温泉街は、古くから修験道の聖地として知られる大峯山(おおみねさん)の麓にある。春になると、白装束の行者たちが町を訪れ、山を目指す。下駄と熊よけの鈴の音が、静かな町に響く。
6時間ほどの山修行を終えて町に戻った行者たちは、この地の湯で疲れを癒し、夜になると提灯の灯った通りを闊歩する。そして小さなカウンターで、ビールグラスを傾ける。
洞川温泉醸造所。ビールをつくっているのは、洞川温泉で代々薬を扱ってきた家に生まれた銭谷貴大さんだ。生まれは、天川(てんかわ)村洞川。高校がないこの辺りでは、中学を卒業したら町を出るのが習わしだ。
銭谷
「僕も同じで、高校から村を出ました。で、ほとんどの人は帰ってこないですね。大学は関東です。薬学部でした。うちは本業がお薬屋なので。大学を出てからもすぐ帰ってきたわけじゃなくて、一度は人様の釜の飯を食う、じゃないですけど、よそで仕事をしてから帰ってくるっていう家の方針があったので」
大学卒業後2~3年は、薬剤師の国家試験のための専門学校で講師をしていた。その後、小さくない抵抗感を抱きつつもこの村に戻ってきた。
銭谷
「まあ、僕らお薬屋や旅館の息子さんたちは、『いつか後を継げ』みたいなことを子どもの時から言われ続けているので。でも高校や大学でよその街に行くと、やっぱり華やかというか、村とは違うところに出るので、『帰りたくないな』という気持ちももちろん多分にあって。最終的には、みんな折り合いをつけて帰ってこなきゃ駄目なのかなという感じですね」






































